竹田恒泰「日本文明は世界最古」は、北朝鮮「大同江文明は世界最高」と同レベル 『天皇の国史』「オーストラリア文明が世界最古」と珍説か



文/小内誠一

磨製石器の出現=日本文明?

前回、「磨製石器の出現が、文化の始まり」と定義した竹田恒泰氏の名著『天皇の国史』(PHP研究所、2020)の粗雑な理論を紹介した(参考リンク)。ふと読み返すと、なんと「磨製石器の出現が、文明成立の条件」と言い出して、日本文明を語りだす個所があったので、この部分の問題点を指摘したい。

磨製石器の出現は、考古学上、文明成立の条件の一つとされていて、日本列島は世界に先駆けてこの条件の一つを満たしたことになる。

竹田恒泰『天皇の国史』PHP研究所

文明成立の条件が磨製石器の出現とは初耳だ。打製石器から磨製石器への移行は、旧石器時代と新石器時代を区別する指標の一つかと思っていた。竹田氏が、何の考古学成果を用いてこのような発言をしているのか、参考文献を調べたがよく分からない。「されている」と受動態で書いている以上、そのエージェントを明記することこそが学術的な良心であろう。

さらに次のように続ける。

一般的な中学歴史教科書には、世界四大文明として支那文明、インダス文明、メソポタミア文明、エジプト文明を紹介し、世界の文明はこの四つの文明から伝播したものであると説明する。従来、日本文明は志那文明の亜流だとみられていたが、岩宿遺跡から出土した磨製石器を始め、戦後の考古学の成果により、その考え方は完全に修正された。

ここでは、かつて四大文明といわれていた地域よりも早い時代に、日本列島に磨製石器があったことを押さえておきたい。

竹田恒泰『天皇の国史』PHP研究所

「四大文明より前に日本文明があった!」という根拠が「磨製石器」一つなのだから驚きだ。世界四大文明では紀元前数千年前に、ピラミッドなど巨大建造物建立や、ハンムラビ法典に代表される法治統理、青銅器や鉄器などの製作、太陽暦・太陰暦に基づく日常生活などが広範囲にわたり大規模に行われていたが、同時期の日本にはこれに比肩できるようなものは一切なかった。

にもかかわらず、磨製石器一つを取り上げて「日本文明」を語ることに何の意味があるだろうか?

竹田氏の理論に従うなら、世界最古の文明は「オーストラリア」で出現?

竹田氏の「磨製石器だけで語る日本文明最古論」は虚しい叫びでしかない。

第一に3万2千年前頃以降に日本から磨製石器は出土していないので、当時日本列島にいた旧石器時代人と縄文人との繋がりがあるのか不明である。

第二にオーストラリアからも3万年以上前の磨製石器が出土しており、北部カカドゥから出土した磨製石斧は6万5千年前のものという研究成果が出ている(西秋良宏編『アジアにおけるホモ・サピエンス定着プロセスの地理的編年的枠組み構築』2018、Chris Clarkson ed. “Human occupation began around 65,000 years ago,” Nature 547(7663), 2017)。

竹田氏の理論を用いるならば「オーストラリア(アボリジニ)文明」こそが世界最古の「文明」でなければならない。この事実に竹田氏は何と答えるだろうか興味は尽きない。

北朝鮮の「大同江文明は世界最高峰」とよく似ている

にしても、日本文明論を語りたがる保守は多い。

日本は近代に至るまで中華圏の一つであり、大陸から常に影響を受けてきたという事実は揺らぎようがない。どうしてこれを受け入れられないのだろうか?

竹田氏のような「日本はスゴイ」と主張し続けなければ気が済まない保守の習性は、奇しくも(彼らが嫌う)北朝鮮のそれとよく似ている。朝鮮半島も中華圏の一つであり常に影響を受けてきた。しかしその事実を受け入れられず、檀君朝鮮など神話を歴史に昇華させたがる。

そこで北朝鮮では、中国文明があるのに、自分たちの「文明」が無いことを問題視して「大同江文明」なる概念を主張し始めた。この主張によれば、檀君朝鮮(紀元前2333年-紀元前1112年)の時代に、朝鮮半島では世界に誇る最高峰の文明が栄えており、四大文明ではなく五大文明こそが正確だというのだ。

檀君朝鮮の創始者・檀君は、神話上の王であり、歴史学者や考古学者でこの実在を信じる人は殆どいない。にもかかわらず北朝鮮ではこの実在が固く信じられている。この構造は、記紀に登場する神武天皇の実在を固く信じる保守派とそっくりだ。そう、日本の保守派は、北朝鮮政府とそっくり。この二つが批判しあう原因は、同族嫌悪にあったのかもしれない。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です