竹田恒泰『天皇の国史』は「対米最後通牒」の内容すら調べていない ルーズベルト陰謀論に飛びつく保守の宿命



文/小内誠一

保守本は面白い

私は歴史本を読むのが趣味で、自宅にはかなりの量の本がある。いわゆる保守の方の本は、読む前から書かれている内容に推測が付くため馬馬鹿馬鹿しいと思いほとんど読んだことがなかったのだが、8月13日に刊行された竹田恒泰『天皇の国史』を読んで驚愕した。

こんなに面白い世界があるとはまさに驚天動地だ。SNS上で知り合った明倫堂さんという方には「保守をいじる」という趣味があるのだが、その面白さを改めて痛感した。

本サイトは皇室関係のものであるため、これまで『天皇の国史』も皇室関係に関する書評を書いていたのだが、今回は全く違う内容で、太平洋戦争(大東亜戦争)に関するものだ。多くの読者には申し訳ない限りだがご容赦いただければ幸甚である。

真珠湾奇襲と騙し討ち

日本海軍機動艦隊は1941年12月8日午前3時25分(ハワイ時間7日午前7時55分/米国東部標準時間7日午後1時25分)に、オアフ島真珠湾に停泊していた太平洋艦隊と周辺基地を奇襲攻撃した。これが太平洋戦争(大東亜戦争)の開戦の火ぶたとなった。

しかし真珠湾奇襲よりも対米宣戦布告が遅れてしまったことはよく知られる事実だ。このため真珠湾奇襲攻撃は「騙し討ち」とされ、ルーズベルト大統領は「リメンバー・パールハーバー」のスローガンの下、アメリカ人の戦意を発揚させた。

日本の伝統的価値観からすれば「騙し討ち」などというのは不名誉なことだ。ゆえに右派保守派は、なかなかこの事実を受け入れることができず、「ルーズベルトは実は開戦を事前に知っていたが、戦争したかったのであえてこれをハワイに伝えなかった」といった陰謀論に喜んで飛びついてしまう。この宿命に竹田恒泰『日本の国史』も逆らえなかったようだ。次のようにある。

米国は、真珠湾攻撃の前日に、日本の宣戦布告文の暗号解読を終えていた。また、日本がハワイのスパイを通じて真珠湾の艦艇の配置状況の情報を収集していたことも、大統領は事前に把握していた。しかし、大統領はハワイの司令官に何の警告も発しなかった。このことは戦後、大統領は意図的に米兵を危険に晒したとして、米会議で問題とされた。

竹田恒泰『天皇の国史』PHP研究所

宣戦布告文

本当に真珠湾奇襲の前日に、ルーズベルト大統領が日本の「宣戦布告文」を知っていたにもかかわらず、ハワイの司令官(ハズバンド・キンメル)に伝えなかったとしたら一大事だ。

だが、この竹田氏の理解には修正が必要だ。まず、現在、太平洋戦争において日本がアメリカに通告した「宣戦布告文」とされる文章「帝国政府ノ対米通牒覚書」は、単に交渉打ち切りを通告する文章であり、武力行使については全く触れていない(なお、イギリスには何も事前に通告していない)。原文を引用しておこう。

「仍テ帝国政府ハ茲ニ合衆国政府ノ態度ニ鑑ミ今後交渉ヲ継続スルモ妥結ニ達スルヲ得スト認ムルノ外ナキ旨ヲ合衆国政府ニ通告スルヲ遺憾トスルモノナリ」

実際に日本は真珠湾を奇襲していたにもかかわらず、宣戦布告ではなく、交渉打ち切りを通告した理由は何だろうか? それは日本側は万が一情報が漏洩した場合に備えて、温和な文章にしていたからだ。

また、この「帝国政府ノ対米通牒覚書」をハル国務長官に通告した野村吉三郎大使は、東京裁判において「対米通告は単なる交渉打ち切り通告であり、開戦通告の最後通牒ではなかった」「前回の交渉が日本軍の南部仏印進駐により打ち切られたが、戦争にならなかった前例に鑑みてもただちに開戦になるとは必ずしも考えず、外交関係が断絶され本国に召還されることを予想した」と答弁している(『国際検察局(IPS)尋問調書』日本図書センター)。

よって「帝国政府ノ対米通牒覚書」をハル国務長官やルーズベルト大統領が知っていたとしても、まさか日本が戦争を仕掛けてくるとは思わなかったろう。真珠湾奇襲がルーズベルト大統領にとって「寝耳に水」だったことは、秦郁彦編『検証・真珠湾の謎と真実—ルーズベルトは知っていたか』(PHP研究所)に詳述されている。もっとも竹田恒泰先生は、秦郁彦氏らの研究が間違いであると考えているのかもしれないが。

以上、竹田氏の誤解をまとめれば次のようになる。

  • 日本はアメリカに「宣戦布告文」を通告していない。ハル国務長官に手交された「帝国政府ノ対米通牒覚書」は、あくまで「交渉打ち切り」の通告であり、それは武力行使を想起せしめるものではなかった。
  • よって「帝国政府ノ対米通牒覚書」を、真珠湾奇襲以前にハル国務長官やルーズベルト大統領が知っていたとしても、ハワイに警告を伝えるはずがない。

竹田氏におかれては、しっかり資料を読んでから歴史を論じていただきたい。


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